ホイールとナットはセットで選ぶ!役割と種類から見るホイールナットの違い
ホイールと並んでドレスアップ効果のあるホイールナットは、色や形状なども豊富に用意されています。
しかし車種によって取り付けできるネジ山の種類は1つだけです。そしてホイールとナットが接する座面の形状もメーカーによって異なるので、同じホイールナットが使えないパターンも存在します。
ではどこでその違いを見分ければよいのでしょうか。この記事ではホイールナットの役割、そして形状や規格などから考えるホイールナットの選び方を紹介します。
目次
ホイールナットの役割
ホイールナットはホイールを取り付けるために無くてはならないパーツです。また単に取り付けるだけでなく、利便性でも優れています。
ホイールの固定
車両に固定するだけなら溶接などの方法もありますが、ホイールは必要に応じて簡単に着脱でき、なおかつ走行中に外れることがない強固な固定方法でなければなりません。
ホイールナットは単にタイヤを押さえつけている訳ではなく、ハブボルトを引っ張ることで「金属の弾性=バネ力」を生み出しています。このバネ力がボルトとナットのネジ山、あるいはホイールのハブ面に作用して、金属同士の摩擦力を生み、ホイールの固定を強固なものとしています。
また、ナットは工具を使えば人の手で容易に外すことが可能です。
ホイールの盗難防止(ロックナット)
通常のナットでは工具で簡単に外せるため、防犯機能に優れているとは言えません。そこでナットとソケットの形状を独自の物にしたのが「ロックナット」です。
ロックナットは通常の正六角形ではなく、複雑な形状を採用しています。その形状に合わせた専用ソケットでなければ外せない仕組みになっているので、ホイールを狙った盗難を防止することができます。
ホイールナットの種類
ホイールナットに使用されるネジにはさまざまな規格があり、デザインも異なっています。よって車両のハブボルトとの適合の他、ホイールとの適合もあります。
サイズ
ホイールナットは大きさや、ネジとしての規格も決まっています。
ネジ穴の大きさや、ネジ山の間隔(ピッチ)は車種によって異なります。これは車両の大きさによって、ハブボルトにかかる負荷の大きさが異なるため、自動車メーカーが出した強度計算の結果から採用されるハブボルトとナットが決まるからです。
加えて販売メーカーと製造メーカーが異なるOEM車なども含めると、同じ自動車メーカー内でもネジの仕様が異なります。
たとえばトヨタとダイハツが「M12×P1.5」をメインとしているのに対して、スバルは「M12×P1.25」というピッチが異なるネジを使用しています。
よってホイールナットは車両に適合するものを選ばなくてはなりません。
座面
ホイールナットはハブボルトを締め付ける水平方向の力と、上からかかる車両の重さによる垂直方向の力の両方を受け止めることが必要です。
座面とはホイールとナットが接触する面のことです。このナットの座面もメーカーによって形状が異なり、主に以下の3種類にわけられます。
- テーパー座:ホイールと接触する面(座面)が60度の斜面になっている
- 球面座:ホイールと接触する面(座面)が球面になっている
- 平面座:ホイールと接触する面(座面)が平面になっている
トヨタが平面座、ホンダが球面座、その他がテーパー座となる傾向にありますが、OEM車では例外も存在します。たとえばトヨタの「86」は、供給元がスバルのBRZであるためテーパー座を採用しており、ダイハツの「メビウス」は、供給元がトヨタのプリウスであるため平面座が採用されています。
形状
ナットの形状としては先述べた特殊形状のロックナットの他、貫通型と袋型の2種類に大別されます。
貫通型は、ボルトがナットを貫通できるものとなっています。これによりボルトの長さに関わらずホイールの座面まで到達でき、多くのホイールに適合します。またボルトの長さを気にしなくてもよいためナットの高さを低くでき、低くすることでホイールカバーなどとの干渉が少なくなります。
袋型は、ナット頭部に蓋がされています。ボルトの長さによっては底付きをすることがあるためナット自体にある程度の高さがありますが、取付け時にハブボルトが露出しないため、汚れや錆などからネジ山を守ることができる点がメリットです。
素材
ナットの素材として主に使われるものはスチール、ジュラルミン、クロムモリブデン鋼、チタンの4種になります。
【スチール】
一般的で価格も安価、それでいて精度と耐久性が高いです。しかし鋼なので重量があり錆びやすい欠点があります。
【ジュラルミン】
アルミ合金の一種で、高い強度を持ちながら軽いというのが特徴です。デザイン性も高く、カラーバリエーションなども豊富でドレスアップのために採用される場合も多いです。
ただし熱膨張率が高いため緩みやすく、定期的なナットの締め付け確認をする必要があります。また摩耗に関しての強度としてはスチールには劣り、ネジ山が磨り減りやすい傾向にあるため頻繁なタイヤの脱着には不向きです。
【クロムモリブデン鋼】
炭素鋼合金の一種で、スチールよりも錆に強く、丈夫な素材です。強度としては鋼以上であるため、スチール製ホイールナットよりも肉薄にでき、軽量化につながります。主に競技車両などのハイパフォーマンスを求める場面で使用されます。
【チタン】
チタンは錆びにくく、強度もあり、なおかつ軽量というホイールナットに適した材質です。こちらも競技シーンなどのハイパフォーマンスを求める場面での使用されることが多いです。ただし高純度チタンは製造と加工が難しいため、その販売価格も高価になります。
ホイールとホイールナットはセットと考える
ホイールはナットによって締め付けできるものですが、適切なナットを使用しないと走行中の脱輪事故原因となります。
座面の形状に注意
ナットとボルトはネジ山とネジ穴の両方の規格が一致することで使用が可能となります。そのため車両に適合するナットであれば、理論上はホイールを締めることはできます。
しかし、座面の形状が異なるナットでは本来の接地面積と締付ける力や摩擦がが得られず、走行中にナットが緩み脱輪事故に繋がるので、ホイールと使用するナットの座面形状が合う物を選びましょう。
とくに球面座は一見するとテーパー座にも見えてしまうため、混同しないように注意が必要です。また平面座は、軸となる部分にホイールが上手く乗っていないと、軸の先端でホイール側の平らな面を挟む形で固定されてしまいます。この状態ではホイールのセンター軸がズレてしまい、ナットも最後まで締まっていないので、締め付け作業では十分に注意しましょう。
なお、平面座のホイールナットの軸の先端にはテーパーが切られており、応急用テンパータイヤにはこのテーパー部を使って固定する仕組みとなっています。
ホイールナットの着脱方法
ホイールナットの交換作業は、基本的にはタイヤ交換の流れと同じです。作業の中にはジャッキアップも含まれていますので、事故に繋がらないように作業を進める必要があります。
道具の用意
ホイールナットの脱着で必要な工具は、ジャッキ、レンチ、トルクレンチ、交換用ホイールナットです。より安全を期すのであれば「輪留め」、「リジッドラック」を用意し、「作業用手袋」もあるとよいです。
ジャッキは車両に装備されているパンラグラフジャッキやフロアジャッキを使います。レンチは各ホイールナットに合うソケットと共に準備します。。4種類のソケットと一つになったクロスレンチだと便利です。トルクレンチは最後の本締めの際に使用します。
ナットを緩める&ジャッキアップ
車両を水平で凹凸が無いコンクリートなどの固い地面に移動させた後に、ジャッキアップの準備をします。車両の4隅にはジャッキアップポイントがあるので、この位置にジャッキを当てましょう。
このときの車両はサイドブレーキをかけ、AT車ならギアはPレンジ、MT車は1速もしくはバックにいれます。また輪留めがある場合には、ジャッキアップの対角線上にあるタイヤの前後に使用するとより安全です。
ナットは接地した状態では車両の荷重がかかっていて緩めにくくなってます。その場合は、タイヤが浮かない程度にジャッキアップすると、荷重が抜けてナットを緩めやすくなりますので、一つづつ90度ほど緩めると外しやすくなります。
全てのナットが緩められたら、タイヤが浮き上がる高さまでジャッキアップを行います。車両から外されているタイヤやリジッドラックがある場合には、車両と地面の間に入れ、万が一の落車事故に備えましょう。
ナットの着脱
タイヤを完全に浮かせた状態でナットを取り外し、必要に応じてタイヤの脱着も行います。
ナットを取り付ける段階で、ハブボルトのネジ山に損傷や汚れなどが無いか目視で確認しましょう。
また電動工具などで締め付けをおこなうと、規定のトルクより大きな力で締め付けてしまったり、異物を巻き込んだ際にネジ山を傷めることがあるので、最初の3回転程度はホイールナットを手で締めていき、スムーズに回ることを確認します。
ジャッキダウンして接地後に増し締め
ジャッキアップ状態でタイヤを前後左右に動かしてガタつかない状態まで締め付けた後は、ジャッキダウンして増し締めを行います。電動工具は使わず、人の手によって行うことでオーバートルク(締め過ぎ)を防げます。
強いトルク設定の電動工具を使ったり、レンチを足で踏んで体重をかけたりすると、オーバートルクとなってハブボルトの折損に繋がるため注意しましょう。
トルクレンチを使って規定トルクに合わせる
車載工具などによって締め付けした場合、正確な締め付けトルクでの調整ができません。
そこでトルクレンチを使い、車両の取扱説明書に記載されている規定トルクで締め付けて作業完了となります。正しく取り付けられていれば緩みが発生することは稀ですが、ジュラルミン製ナットや大型トラックなどにおいては緩みが発生しやすいので、定期的な点検が必要です。
トルクレンチが手元にない場合には、ひとまず増し締めを行い、最寄りの整備工場などに持ち込んでトルク調整の作業を依頼します。
まとめ
ホイールナットに求められる性能は多様化しており、足回りのドレスアップパーツとして、あるいは高価なホイールを盗難被害から守るセキュリティパーツとしての役割もあります。
しかしホイールナットの本来の役割は、ホイールを確実に固定することです。
ホイールナットはタイヤを固定する上で無くてはならないパーツであり、走行中の大きな負荷にも耐えられるように設計されています。ハブボルトとのネジの関係や、ホイール座面との相性を間違えると、脱輪による重大な事故を招くことになりかねません。
取り付け時のトルク管理をはじめ、正しく取り付けされてこそ本来の性能と役割が発揮できるので、取り付けに不安であれば整備に精通したプロのスタッフに任せることをおすすめします。